「アジア太平洋多文化協働センター」設立構想
本構想は日本とアジア太平洋諸国の多文化協働により創出するソフトパワーを基本に、平和で安定した社会の構築と発展に資する教育・研修・研究・交流を行う独立行政法人の国際機関設立を目指すものである。
設立趣旨
第二次世界大戦後 40 年以上続いた東西冷戦構造が 1989 年にベルリンの壁とともに崩壊したことにより、平和な世界が実現するものと期待された。ところが、それまで東西の政治イデオロギーに抑えつけられてきた民族主義・排外主義等が各地で吹き出し、多くの紛争やテロ等が勃発する不安定な社会へと変貌した。アジア太平洋地域においても各地で民族、宗教、領土等の対立が表面化している。
政治体制の変化と同時期に市場経済の導入や開放経済の進展等により、旧東側諸国や途上国で目覚しい経済発展が始まった。アジア太平洋地域の発展途上国とよばれた多くの国々でも経済成長が続き、特に、中国の巨大な市場と生産力は現在の世界経済に強い影響を与えている。一方、このような急速な経済成長の陰で、これらの地域で環境問題が深刻になり、大気汚染など、一刻も猶予できない段階に達している。
かつて発展途上国とよばれたアジア太平洋地域の国々は、現在、政治的にも経済的にも存在感を増している。その結果、今まで政治的な圧力や経済格差によって抑えられてきた民族的な自己主張や戦後補償等に対する顕在的なわだかまりがさらに激化し、潜在的なわだかまりが噴き出してくる状況にある。世界が直面するこのような国際的・民族的課題および環境問題は、各国が共に手を携えて解決に努めることが極めて重要である。
日本は第二次世界大戦によりアジア太平洋地域に甚大な損害を与えた。その戦後補償の意味も含めて 1954 年にビルマ(現ミャンマー)に対して始まった日本政府の国際援助事業は、現在の JICA が実施する有償・無償の経済・技術援助事業等に発展し、その成果は海外でも高く評価されてきた。しかし、経済の成長により新興国とよばれるようになった国々では、日本が行ってきた供与・給付型の援助に対する評価は相対的に以前ほど高くない。また、このような援助だけでは、民族的なわだかまり等を解きほぐすことは困難である。平和で安定した社会を形成し、維持するためには、政治、経済や安全保障といったハードパワーだけでなく、文化的知性やコミュニケーション力等のソフトパワーにより、一般の人々の心理に燻るわだかまり等を乗り越え、多様性を受容し、相互依存関係を認識する必要がある。
このようなソフトパワーは、日本を含むアジア太平洋地域の人々が、寝食を共にし、対等な相互関係に基づいて直接顔を合わせて議論し、相互の文化や伝統等を尊重しあい、次世代リーダーとして成長する中で培われる。そのための教育・研修・研究・交流を行う国際機関として、アジア太平洋地域と日本の結節点として長い交流の歴史を有し、多様な文化を受け入れてきた沖縄に「アジア太平洋多文化協働センター」を設立することを提案する。
本機関は、将来の日本とアジア太平洋地域の平和と繁栄に大きく貢献するものとなることが期待される。
令和3年(2021 年)8 月
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